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そして六年の歳月が流れた
安西はちょっと考えてから、「正夫さん、ちょっと駐在所まで来てもらえませんかな。その話を少し詳しく伺いたいが」「いいですとも。といって、大した話はありませんけどね」 と正夫は気楽に言った。「——それじゃ美沙さん。どうも兼一に黙って帰るってわけにもいかなくなったけど」「ええ」「それにしてもどこへ行ったのかな、兼一は。夜遊びするような奴じゃないし」「この辺じゃ遊ぼうにも場所がありませんからね」 と安西が笑って言った,oakley サングラス 激安。「本当にね。——東京に一度でも住んじまうと、とてもだめだね。こんな所は」 二人は一緒に歩き出した。もう朝もやも大分うすれてはいたが、美沙子は二人の後姿が見えなくなるまで、玄関の戸を開けたままずっと見送っていた。 それから、美沙子は茶の間へ戻った。美津子は目を覚ましてはいるが、上機嫌に、母親の顔を見て笑った。 ——美沙子と正夫は、幼い頃《ころ》から兄妹同然に育って来た仲である。十六の頃には、もう誰もが二人は行く行く夫婦になる仲だと思っていたし、もちろん正夫と美沙子もそのつもりであった。 その事情が急変したのは正夫の父、矢川隆也が、遠縁に当る栗山家の土地を勝手に抵当に入れて金を借り、差し押えられるという不祥事を起してからだった。賭《か》け事に手を出した矢川が莫《ばく》大《だい》な借金をこしらえて、追いつめられた挙句にしたことであった。 こんな小さな町では、人の目を逃れることはできない。兼一の父、栗山兼吉は矢川を許したのだが、矢川は堪え切れず、ある日裏山へ入って首を吊《つ》った。妻も後を追うように病死して、一人残された正夫は、東京の親類を頼って町を出たのである。 そして六年の歳月が流れた。 美沙子は、東京へ行った兼一から、正夫が死んだと聞かされて、しばらく泣き暮していたが、兼一の優しい慰めに、心打たれるようになった……。 美沙子は、ぼんやりと茶の間に座り込んでいた。——兼一が嘘をついていたとは。 疑いなどかけらも持っていなかっただけに、美沙子にとって、これは大きなショックであった。 だが今さらどうできるだろう? 夫婦になって、こうして娘まで生れた今、美沙子は静かな幸福を楽しんですらいたのだ……。 総ては一夜にして崩れ去った。——正夫が生きていることが分って、同時に夫は姿を消した。 これは偶然ではあるまい。宏造からの電話で、兼一はおそらくボートに乗った若い男が正夫だと察したのであろう。そして家を出て行った。——どこへ行ったのか,oakley メガネ? 宏造が殺されたこと、正夫が帰って来たこと、兼一が姿を消したこと。 どこかで、総てはつながっているのに違いない。美沙子はそう思った。3「すると、その矢川正夫というのが犯人ではないかと君は思うわけだね?」 県警の速見という刑事は、タバコを灰皿へゆっくりと押しつぶして言った。およそ刑事らしからぬ、穏やかな初老の紳士で、田舎の学校教師という印象である,OAKLEY アウトレット。 しゃべり方も細々として、半ば照れくさそうに声も低い。「はあ、さようです」 と安西は肯いて、「事件の当夜、川を渡って来たことは当人も認めています。
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