|
」 「やめたってわけじゃないけど……
昭子は何となく圭子の気持ちが分るような気がした。 「どうして絵をやめたの?」 「やめたってわけじゃないけど……。行き詰《づ》まったのね。しょせん才能がなかったのよ。描《か》きたい、っていう気持ちにせかされるように描いて……でも出来上がったものは見るも無残な駄《だ》作《さく》ばっかり。結局、技術がついていかないのよね,TUMIトートバッグ。がっくりしてる所へ、両親のほうからお見合いの話があって、半分やけになってね、見合いをして、五、六回付き合って、何となく結《けつ》婚《こん》ってことになっちゃったの」 圭子はまるで気のない様子でそう言うと、「これで子供を生んで、のんべんだらりと暮《く》らすのが、私には似合ってるのかもしれないわ」 と苦《にが》笑《わら》いしながらコーヒーを飲み始めた。 「——で、あなたは何の用でここに来たの?」 訊かれて、昭子は返事に詰まった。何と答えればよいのか。——圭子のように、「ハネムーンよ」とはっきり答えられるのが、急に羨《うらや》ましいような気になった,tumi 26141。 「別に、ちょっと来てみただけよ」 と昭子は言った。 「よく来るの、ここに?」 「そう……時々ね」 「羨ましいわ、優《ゆう》雅《が》な生活ね」 「そんなことないわよ」 「だって、私なんか、ハネムーンだからここへ来てるけど、いったん平《へい》凡《ぼん》な主婦になったら、この先、一体いつこんな所、来られるか分ったもんじゃないわ」 「そんなに大げさな——」 「いいえ、本当よ。毎日、掃《そう》除《じ》だの洗《せん》濯《たく》に追われて一生を終わるのかと思うと……」 「新婚早々の花《はな》嫁《よめ》さんがそんなこと言ってちゃだめじゃないの」 昭子は思わず笑ってしまった,tumi ビジネスバッグ。そして、きっと圭子は幸せなのだと思った。私は不幸なのよ、とは、本当に不幸な人間は口にできないものだ。ことにかつては志《こころざし》を同じくした友人同士の間ならば……。 「ここへ泊まってるんでしょ,tumi バッグ?」 と圭子が訊いた。 「そうじゃないの。ずっと奥の方の山荘にね——」 「まあ! もうそんな身分なの?」 と圭子が目を丸くするのを見て、昭子は慌《あわ》てて、 「私のじゃないのよ。知ってる人のものなの。時々使わせてもらってるのよ」 と言い足した,tumi アウトレット。 「でも好きなだけ絵も描けて、本当にいいわねえ」 と圭子は羨ましがることしきりである。実際はどんな用で来ているのか、知ったら仰《ぎよう》天《てん》するだろうと昭子は思った。 圭子は元来がいい家の娘で、金に不自由したこともないし、絵を描くことにそれほどの切実な欲求を持っていなかったのだろう、と昭子は察していた。何一つ不自由なことのない芸術家というのは、ほとんどいない。本当の天分に恵《めぐ》まれた、例えばメンデルスゾーンのような例外もあるが、そのメンデルスゾーンも若くして死んだ。人生はどこかで帳《ちよう》尻《じり》を合わせているのだ。 ふと、昭子は思い付いたことがあった。 |
|